
ほりコーチ
大学まで

9月8日、今日の日経新聞に、体育会系の新卒学生を積極的に採用する企業が増えているという記事が出ています。就職情報サービスのポートによると、2026年卒の採用を行った企業のうち、約150社が採用条件の一つとして「体育会系経験」などを明記。その数は5年間で3倍以上になりました。また、体育会系学生の就職支援を手がけるスポーツフィールドが、2027年卒の学生を紹介した企業は1746社で、前年卒より約15%増えています。ただ、体育会系が就職で評価されること自体は、今に始まった話ではありません。私が学生だった頃から、大学の体育会を4年間続けた学生は企業から一定の評価を受けていました。特に野球やサッカーなどの団体競技では、必ずしもスター選手だけが注目されるわけではありません。例えば早稲田、明治、法政などの強豪大学の野球部やサッカー部には、高校時代に中心選手だった人たちが集まります。それでも大学でレギュラーになれるのは一部です。試合にほとんど出られなくても練習を続ける選手がいる。自分が主役になることのないマネージャーとして、4年間チームを支える人もいる。以前、知人の上場企業社長が、「スター選手より、強い体育会で4年間補欠でも続けた選手や、チームを支えてきたマネージャーのような人を採用したい」と話していたことがあります。もちろん、すべての企業がそう考えているわけではありません。ただ、私は小さな会社を長く経営してきたので、その社長が言いたかったことはよく分かります。会社も、目立つ人だけでは成り立たないからです。営業成績トップの社員がいる一方で、表には出ない仕事をきちんとやる人がいる。周囲を支える人もいれば、自分が思うように評価されない時期でも、与えられた仕事を続ける人もいる。そして仕事では、努力したから必ず結果が出るとは限りません。営業なら、一生懸命説明しても断られることがあります。思うような成果が出ないことも、自分の希望とは違う仕事を任されることもある。そんなときに、どう考え、どう動くのか。企業が体育会系の経験を見るとき、「体育会系だから根性がある」という単純な話ではなく、結果が出ない状況で何を考え、どう行動してきたのかを知る材料にしているのではないでしょうか。今回の記事でも、KPMGコンサルティングの採用責任者は、厳しい上下関係や理不尽さに耐える我慢強さそのものを評価しているわけではないと話しています。評価しているのは、努力しても必ず結果が出るとは限らないスポーツの世界で、試行錯誤しながら努力を続けてきた経験です。昔ながらの「体育会系=根性」という話とは、少し違います。そして今、この力が改めて注目されている背景の一つがAIです。AIは情報を集め、整理し、文章を書き、資料を作るところまで急速に進化しています。だからといって、人間の仕事がすべてAIに置き換わるわけではありません。むしろ、人と信頼関係をつくる、相手の反応を見ながら話す、周囲と協力する、うまくいかなければやり方を変えてもう一度動く。こうした力は、これからも仕事で必要になるでしょう。特に営業はそうです。私は長く仕事をしてきて、営業には最後は体力も必要だと感じています。断られても次へ行く。結果が出なければ考え直して、また動く。知識や営業テクニックだけではなく、続けられること自体が仕事の力になる場面があります。だから採用する側が、学生時代に何かを長く続けてきた経験を見るのは理解できます。ただし、これは体育会系だけの話ではありません。合唱部や吹奏楽部などを4年間続けた人もいるでしょう。同じ飲食店や販売店で4年間アルバイトを続け、接客や後輩の指導まで経験した学生もいる。研究や文化系の活動に打ち込んだ人にも、それぞれ違った経験があります。体育会系だから優秀とも、体育会系ではないから継続力がないとも言えません。企業が本当に見たいのは「どこに所属していたか」ではなく、「そこで何を経験し、どう行動してきたか」なのだと思います。もちろん大学で勉強することも大切です。専門知識がそのまま仕事につながる分野もありますし、学業と部活動のどちらが上という話でもありません。ただ、社会に出ると、知識だけでは解決できないことにも数多く出会います。年齢も価値観も違う人と働き、思い通りにならないことに対応し、失敗したらやり方を変える。そうした経験を重ねながら仕事を覚えていきます。採用だけで、その人が将来活躍するかを完全に見抜くことはできません。だから企業は、学歴や成績だけではなく、学生時代に何を続け、どんな役割を担い、思うような結果が出ないときにどうしてきたのかを見るのでしょう。AIができることが増えている今だからこそ、知識や処理能力とは違う部分にも、企業の目が向き始めている。今回の記事を読んで、体育会系学生の採用が増えているという数字以上に、そこが興味深いと思いました。学生時代に何を成し遂げたかだけではなく、思い通りにならないときにも、何を続けてきたのか。これからの採用では、そんな経験も今まで以上に見られるようになるのかもしれません。
以上。
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